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当前位置 : gay>耽美>♂ゲイ小説 Just the Way You Are(06/42)

♂ゲイ小説 Just the Way You Are(06/42)

编辑:耽美 时间:2008-08-02 Tag:♂ゲイ小説   GAY  

同じ頃合い――。
 赤坂七丁目に所在した、池星栄五郎の邸宅では、家族らが夕食のダイニングテーブルを囲んでいた。
 テラスに面したガラス張りの引き戸を通して、柘榴や柿などの木々と、一面に芝生を敷き詰めた広い庭が見渡せるダイニングスペースの中央に、樫材の大振りで堂々としたテーブルが、ちょこんと配置されていた。それほどに、この空間は広々としていた。手入れ良くワックスが掛けられた板張りだった。
 さらに、このダイニングスペースには、これより面積にして倍ほどになる、贅沢なリヴィングスペースが連なっていたのである。こちらにはベージュ色の絨毯が敷かれていた。やはり、一面がガラス張りの大きな引き戸があって、そこからはダイニングスペースとは少々違ったアングルで、庭の景色を楽しむことができた。革張りのソファー椅子が点在し、思い思いの方向を向いていた。それらの隙間には、ふかふかしたクッションが何個か置かれていた。サイドテーブルが、いくつもあった。リヴィングスペースの最も奥に置かれたステレオのスピーカーから、ヘンデル作曲・合奏協奏曲のLPレコードが静かに再生されていた。
 庭が望めるダイニングスペースの席に、着物姿の栄五郎が座っていた。七十七歳――、池星家の当主、株式会社ホッセーのワンマン社長であった。
「そうか。ユウちゃんは、お友達と一緒にお歌を歌ったのか。ほうほう、そうか」
 栄五郎は本来ならギョロリとしていた筈の目を優しく細めながら、傍らに座らせた孫娘・優美の口元へ、箸に摘んで、また何かを運んだ。その様子を、息子・靖一の嫁・鏡子が、あからさまに不愉快な表情を浮かべて眺めていた。
「うたったよ。アタチねーえ、……“ようこそーみなさんー♪”って、うたった」優美は、ハキハキと歌唱を交えて応答した。この日の昼間に執り行われた入園式の話をしていたのだ。
「おお、それはよしよし。じゃあ、これを食べてから、どういうお歌だったか、お話するんだぞ」
「おほねは、なあい?」優美が、心配そうな顔をした。
「骨はね、おじいちゃんが全部取ってあげた。ほら、ユウちゃん、見てご覧……。これは、“鯛の鯛”と言ってな、お魚の形をしている骨だぞ……」
「ホントだ! ちっちゃい“きんぎょ”みたーい! ふうん……。じゃあ、おほね、とったから、たべてもへいきだね?」優美が、屈託の晴れた安心顔になると、
「大丈夫だ。心配せんでいい」
 そう言って、栄五郎は優美の口の中へ、自分の皿から取った真鯛の煮付けの切れ端を押し込んだのである。
「そら。美味しいだろう?」
 優美は、栄五郎が口へ入れてくれた真鯛の煮付けをゆっくり噛んで味わうと、慎重に呑み込んでから、
「おいしいね!」と、素直に微笑んで見せた。
「さあ、それじゃ次はご飯だぞ」栄五郎が、これも自分のご飯茶碗から箸で少しだけ取って、また優美の口元へ近付けようとした。
 この晩も、こうして常と同じような食事風景が繰り広げられたので、鏡子は、ついに言わなくてはならないと思った。
「お義父さま、優美の分は、ちゃんとあります……」と、鏡子は優美の前に用意されていたチキンドリアと、チーズが乗ったハンバーグステーキを、持っていたナイフの先端で指し示した。
「……自分で食べさせるようにしているんですから……」
 栄五郎のリクエストだった真鯛の煮付けというおかずは、ちまちまとした小骨があったので、まだ六歳の娘には食べずらいと判断した。喉に骨が刺さっては一大事と配慮した。だから、家政婦のキクに命じて、優美だけ他のメニューにさせていた。
「そんな、西洋人の食事ばっかりさせていては、不健康でいかんわな。日本人には、日本の食事が一番いい。……本当だ! ……」
 栄五郎は、目を細めるのを止めて気難しそうな表情に変え、鼈甲のメガネ越しに、巨大な目玉で鏡子を睨んだ。
「……それに、子どもにだけ違うものを喰わせて、どういうつもりなんだね?」
 語気が、やや荒い栄五郎を見て、優美は驚いたのか黙って目をパチクリとさせていた。
「優美は、これから幼稚園の年長なんですの。お箸はもちろんだけど、ナイフとフォークもちゃんと自分で使いこなせるように躾けなくては」
「そんなもの。小学校に入ってからで構わん」
「いいえ。お義父さま! ……」鏡子は、決然として言った。
「……ユリイカ幼稚園では、最後に卒園テストをやるんですの。お食事の項目もあるんです。自分で、お箸もナイフもフォークも、上手に使えるようにさせないと」
「そうだったか。ならば、箸を使えるように、今夜は日本食で良かっただろうに。何故、ワシの言う通りにしない?」
「真鯛の煮付けでは、小骨がありまして……」鏡子の言葉を遮るように、
「いいや、大丈夫だ、小骨など。喉に刺さって初めて、注意して食するようになる。それが成長ということだぞ、鏡子さん」
 栄五郎は、本来のギョロリとした目付きで威圧した。鼈甲のメガネが、彼の頑固な性格をそのまま表わしているようだった。
「はい、お義父さま。いずれ、相応しい時期になったら、そう致しますわ。いまの優美には、まだ早いです」鏡子は、負けじと薄笑いを浮かべ、余裕を装った。
「ねえねえ。おじいちゃま。ごはんはどうするの?」優美が、困ったように栄五郎を見上げると、鏡子が、
「あ、ユウちゃん。チキンドリアにもご飯が入っているのよ。自分で食べて、どういうご飯が探してご覧なさい」優美の口元にご飯を構える栄五郎を牽制するように言った。
「どういうごはんか、アタチしってるよ、ママ!」
「そうなの。まー、お利口さんなのね。じゃあ、そのドリアをひと口、いえ、ふた口食べてから、ママにどんなご飯だったか教えて頂戴な」
「うん!」優美は、楽しそうな顔になって、フォークをドリアに突っ込んだ。
 栄五郎は、何か言いたそうなのをグッと堪えた様子で、遣り場なく箸で掴まえていたご飯を、やむなく自分の口へと運んでむしゃむしゃと食した。


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